研究計画書を作成する

疫学統計の基礎

クリニカルクエスチョンができたら、研究計画書を作成します。有意義な臨床研究を行うにはしっかりと練られた研究計画書が必要不可欠です。ここのステップには時間をかけてしっかり準備してから研究を始めましょう。

ここでは、「心不全の患者において薬Aは薬Bと比較して、心不全再入院を減少させることができるかを検討する。」をCQとして計画を立てたいと思います。

研究計画書の項目

  • 1)研究の背景
  • 2)研究の目的と臨床的意義
  • 3)仮説
  • 4)研究の方法
    1. 研究デザイン
    2. 対象: inclusion criteria, exclusion criteria
    3. 評価項目(アウトカム)
    4. 情報収集項目
    5. 研究に必要な定義
    6. バイアスに関する検討
  • 5)倫理的問題、プライバシーへの配慮

研究の背景 先行文献を調べる

研究の背景 を書くために事前調査を行います。論文ではBackgroundに当たる部分です。リサーチクエスチョン(RQ)に関連する文献を検索しましょう。下記のことを念頭に置いて文献検索を行います

今回の臨床研究を行う、臨床的な意義は何か?

  • What is known? 現在どのようなことがわかっているか?
  • What is unknown? わかっていないことは何か?
  • Problem 臨床上の問題点は何か?このProblemを解決するために、臨床研究を行う。

今回の臨床研究の参考となる先行研究はあるか?

  • どのような方法を用いているか?
  • どのような項目を検討しているか?
  • カットオフ値や測定方法は?

研究の目的と臨床的意義

先行文献でわかったことを生かして研究の目的と臨床的意義をより明確にしていきます。

例)
●臨床的意義は何か?
・What is known? Drug Bは心不全の予後を改善する薬として知られている。最近Drug Aが開発され、薬理作用的にも心不全の予後改善が期待される。
・What is unknown? Drug AはDrug Bと比較して、心不全の予後改善においてどちらが良いかは知られていない。
・Problem 心不全の予後改善のためにはDrug AとDrug Bどちらを使用するほうがよいか?
→臨床的意義:本研究でよりDrug AとDrug Bの効果を比較することで、心不全患者の予後改善に貢献することができる。

臨床的意義を明らかにすることで、本研究を行う目的がより明確になります。

仮説 仮説とその解釈をする

どのような結果になりそうか仮説を立てます。
このとき、予想に反する結果が出た時の解釈を考えておくと、思い通りの結果が出なかったときにも対処可能です。その場合に必要なデータ収集項目も明らかになります。結果が出なかったために、臨床研究が台無しになることを避けましょう。

例)
仮説:Drug A投与群では心不全再入院率が低下する。

予期しない結果:Drug AとDrug Bでは心不全再入院率に差がなかった。
解釈①:Drug AはBと比較して血圧低下効果が大きいとされている。血圧低下のために薬を減量、中断せざるを得ない人が多かったのではないか?→薬剤の中止イベントに関するデータも収集しておく。若年者と高齢者で層別に解析すると差があるかもしれない。
解釈②心不全再入院率に差はなかったが、使用する利尿薬が減らせる、自覚症状は改善するなどのメリットが期待できるのではないか?→他の薬剤使用状況や自覚症状に関するデータも収集しておく。

主要なOutcomeで差がでなかった場合にも上記のような解釈ができるのであれば、学会や論文で報告する余地はあります。そのため、予期しない結果となる場合に備えて関連する項目を収集しておくとよいです。

研究の方法

研究デザイン

研究デザインには大まかに下記のものがあります。
観察研究
・記述疫学研究
・生態学的研究
・横断研究
・コホート研究
・症例対象研究
介入研究(ランダム化/非ランダム化)
・個人割付介入試験
・集団割付介入試験

これらの中からCQを解決でき、データも収集できる実現可能な方法を選択します。


例)初回心不全入院患者にDrug AもしくはDrug Bを投与する介入試験。くじを用いてランダムに割付を行う。

対象を決める

例)
対象項目:○年○月~○年○月にかけて○○〇病院に初回心不全のため入院した患者
除外項目:
外来でDrug AまたはDrug Bをすでに導入されていた患者
血圧低値、腎機能障害などのためにDrug A、Drug Bを導入できなかった患者
研究参加に同意が得られなかった患者

ここでselection biasがかからないように注意します。Biasは解析などで除くことはできません。可能な限りBiasが小さくなるように研究計画を立てる必要があります。

介入の方法

割付はどのように行うのか、盲検化の有無、手術などの侵襲を伴うものであれば、どのような術式を用いるのか、などを記載します。

評価項目(アウトカム)

評価項目は複数あって構いません。不足するデータがないように、すべて挙げておきます。


例)
Primary outcome: 心不全再入院、全死亡
Secondary outcome: 心血管死、自覚症状の改善、利尿薬の減量、有害事象

情報収集項目

具体的にどのようなデータが必要か挙げていきます。例を参考にしてください。


例)
・患者背景:年齢、性別、既往歴(高血圧、高脂血症、糖尿病、心房細動、虚血性心疾患、脳卒中)、入院日、入院日数
・検査データに関する項目:血液検査(Cr, BNP)、心エコー(EF, LVDd, IVST, PWT, E/e’)、胸部X線(心胸郭比、胸水の有無)※入院時、退院時、最終外来時
・治療に関する項目:使用している心不全に対する薬(ループ利尿薬、MRA、β遮断薬、ACEI、ARB)
・介入に関する項目:Drug A / Drug B
・アウトカムに関連する項目:心不全入院の有無、再入院の日付、死亡の有無、死因、死亡日、利尿薬の使用状況(入院時、退院時、最終外来時)、自覚症状に関する項目(NYHA)、有害事象、最終外来日

研究に必要な定義

ここではあいまいなものを定義したり、カットオフ値をあらかじめ決めておいたりします。そこで関連する研究の先行文献を参考にするとよいです。

バイアスに関する検討

交絡因子は多変量解析やマッチングといった手法などで、ある程度制御することができますが、バイアスは後から制御することはできません。計画の段階で可能な限りバイアスは減らすようにしておきましょう。ただし、どんな研究にもバイアスや欠点は伴います。自分の研究にはどのようなバイアスや欠点があるのかを把握しておきましょう。

倫理的問題、プライバシーへの配慮

ここでは詳しく述べませんが、人を対象とした研究の場合、ヘルシンキ宣言に基づいて研究を行います。
倫理的な問題はあるか、研究に参加することでどのような不利益があるか、参加者へのインフォームドコンセント(研究内容、有害事象の可能性、研究参加による不利益、いつでも中止できること、患者個人の利益が優先されることなど)、プライバシーをどのようにして守るか(匿名化やデータ保存の方法、いつまで保存するかなど)を記載します。
施設ごとに倫理委員会が開かれていると思いますので、倫理委員会での審査を経て、通過すれば臨床研究に着手することができます。

まとめ 計画をしっかり練りましょう!

多くの項目があって大変ですが、計画の段階で論文の’Background’、’Methods’の部分が書けます。Methodsを書くことを意識しながら計画を立てるとよいでしょう。先行文献のMethodsも参考になります。

この段階で共同研究者と話し合って検討を重ねることも重要です。しっかりとした研究計画書が有意義な臨床研究への近道です!

コメント

タイトルとURLをコピーしました